大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和34年(う)153号 判決 1959年10月20日

被告人 細越アキコ

主文

原判決中被告人の有罪部分を破棄する。

右部分を宮崎地方裁判所に差し戻す。

理由

職権で調査すると、本件記録によれば、原審は、原判示第一に該当する公訴事実の訴因について第一回公判調書において簡易公判手続によつて審判する旨の決定をしているのであるが、その後右訴因について訴因の変更(原審は追加としているが変更とすべきである。)がなされ、第二回公判期日において被告人は右変更後の訴因を争つたのであるから、簡易公判手続によることが相当でなくなつたものである。このように簡易公判手続によることが相当でないことが判明したときは、ただちにその決定を取り消し、公判手続を更新して(検察官および被告人または弁護人に異議のないときは更新しなくてよい。)、その後は通常の手続によつて審判しなければならず、そのまま簡易公判手続によつて審判することは許されないものと解するのが相当である。しかるに、原審は、右決定を取り消すことなく、そのまま簡易公判手続によつて審判し、第四回公判期日において証拠調終了後右決定を取り消し、検察官および被告人に異議がなかつたので公判手続を更新しなかつたものである。したがつて、右の簡易公判手続によつて審判する旨の決定を取り消すべき時期以後の前記訴因についての原審の訴訟手続は法令に違反したものであり、その後右決定取消による公判手続の更新がなされておれば格別、公判手続を更新していない以上、更新しないことについて検察官および被告人の異議がなかつたとしても、右違反は治癒されたとはいえないから、右違法な訴訟手続中に取り調べられた原判決挙示の中谷光子の検察官に対する供述調書は証拠とすることはできないものである。

つぎに、原審が原判示第一に該当する公訴事実の訴因について第一回公判期日においてした簡易公判手続によつて審判する旨の決定は、その後追起訴された原判示第二および原判決が無罪とした事実に該当する公訴事実の訴因には及ばないのであつて、右追起訴状の朗読された第二回公判期日以後に右訴因について簡易公判手続によつて審判する旨の決定をしたことが認められない(しかも、右追起訴の訴因は、被告人の有罪の陳述もなく、一部は被告人の争うところであるから、簡易公判手続によつて審判することはできないものである。)ので、右追起訴の訴因は通常の手続によつて審判しなければならないのに、右訴因について検察官が証拠調を請求した書面(この書面は刑事訴訟法第三二六条によつてのみ証拠能力を取得する書面である。)を被告人の同意なく証拠調をし、その証拠調の方法も公判調書によれば前記簡易公判手続によつて審判した変更訴因についての証拠と一括して取調済と記載してあるので刑事訴訟法第三〇五条の方式によつたか疑わしい。したがつて、右追起訴の訴因についての原審の訴訟手続は法令に違反したものであり、前記のとおり右訴因以外の訴因についての簡易公判手続によつて審判する旨の決定取消後の公判手続を更新しないことに検察官および弁護人に異議がなかつたとしても、右違反が治癒されたとも認められないし、前記書面についてその後証拠とすることについて同意のあつたことを認めるべき資料もないので、右違法な訴訟手続中に取り調べられた原判決挙示の松村芳子の検察官に対する供述調書も証拠とすることはできないものである。

そして、前記中谷光子、松村芳子の検察官に対する各供述調書を除くと、原判決挙示の証拠は被告人の自白のみとなることに帰するので、原審には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があり、原判決は破棄を免れない。

そこで、弁護人の論旨(事実誤認、量刑不当)に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条、第四〇〇条本文により原判決中被告人の有罪部分を破棄し、右部分を原裁判所である宮崎地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 二見虎雄 後藤寛治 矢頭直哉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例